今年2024年は京劇の名優・梅蘭芳(メイランファン)の生誕130周年記念で、日本でも中国でも記念のイベントが行われます。
 それにあわせて、漢詩を詠みました(中国で披露する予定)。

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紀念梅蘭芳誕辰一百三十周年
舞剣散花銜羽觴
婆娑宛転又璆鏘
霊台咫尺猶天地
戯曲大師現十方

剣を舞はし、花を散じ、羽觴を銜ふ
婆娑たり、宛転たり、又璆鏘たり
霊台の咫尺は猶ほ天地のごとく
戯曲の大師は十方に現ず

ケンをマわし、ハナをサンじ、ウショウをクワう
バサたり、エンテンたり、またキュウソウたり
レイダイのシセキはナおテンチのごとく
ギキョクのダイシはジッポウにゲンず

【大意】
剣の舞の虞美人
世界に仏の花をまく天女
後宮で酒杯を口にくわえのけぞる楊貴妃
優雅、繊細、また大胆
人の心も舞台もサイズは有限だがイメージの広がりは無限大だ
芝居の大師は古今のあらゆる世界に姿を現す

【自注】
舞剣散花銜羽觴:梅蘭芳は、『覇王別姫』では虞美人の激しい剣舞を、『天女散花』では天女の優美な歌舞を、『貴妃酔酒』では楊貴妃の妖艶な酔態を演じた。
羽觴:ウショウ。羽のようなおしゃれな取っ手がある杯。李白『春夜宴桃李園序』「開瓊筵以坐花、飛羽觴而酔月」。梅蘭芳は京劇『貴妃酔酒』では「臥魚聞花」「銜杯下腰」などが見せ場になっている。
婆娑:バサ。舞う人の姿や衣装が美しくひるがえるさま。『覇王別姫』の虞美人は「西皮二六」のふしまわしで「歓君王飲酒聴虞歌、解君憂悶舞婆娑」云々と歌う。の歌詞に「」とある。
宛転:エンテン。声がなめらかなさま。形や動きがゆるやかな曲線を描くさま。ここでは『天女散花』の歌舞。
璆鏘:キュウソウ。玉や金属がシャリシャリと鳴り響くさま。歌や演奏の音色が美しいさま。ここでは、『貴妃酔酒』の楊貴妃の玉飾りがシャリシャリと鳴り、歌声や伴奏の音色が美しく、また梅蘭芳の雅号が「綴玉軒」であること、など様々なイメージを重ねる。
霊台:心を指す漢文的表現。ここでは「舞台」のイメージも重ねる。
咫尺:シセキ。咫は八寸、尺は十寸。ごく短い距離のたとえ。京劇界のことわざ「舞台方丈地、一転万重山。出門三五歩、咫尺是他家」(舞台は一丈四方の大地。一転すれば万重の山。門を出て数歩も歩めば、わずかな距離で相手の家に着く)をふまえる。 
戯曲大師:「戯曲」は中国語で伝統的音楽劇の意。「戯曲大師」は中国語で歴代の伝統劇の巨匠たちを指す。京劇の梅蘭芳は戯曲大師の筆頭に挙げられることが多い。ちなみに日本語では「大師」は高僧の敬称でもある。
十方:ジッポウ。あらゆる方角。『妙法蓮華経』観世音菩薩普門品第二十五「十方諸国土、無刹不身」(観音菩薩は、宇宙のあらゆる国土において姿を現わさない場所はない)。『無門関』第四十六則「百尺竿頭須進歩、十方世界全身」(百尺の竿頭にすべからく歩を進むべし、十方の世界に全身を現ぜよ)などをふまえる。

【参考 簡体字】
纪念梅兰芳诞辰一百三十周年
舞剑散花衔羽觞
婆娑宛转又璆锵
灵台咫尺犹天地
戏曲大师现十方

jì niàn méi lán fāng dàn chén yī bǎi sān shí zhōu nián
wǔ jiàn sàn huā xián yǔ shāng
pó suō wǎn zhuǎn yòu qiú qiāng
líng tái zhǐ chǐ yóu tiān dì
xì qǔ dà shī xiàn shí fāng


【参考 繁体字】
紀念梅蘭芳誕辰一百三十周年
舞劍散花銜羽觴
婆娑宛轉又璆鏘
靈臺咫尺猶天地
戲曲大師現十方