昨日、千葉市の朝日カルチャーセンターで、三ヶ月に一度の講座をした。
 その中で取り上げた漢詩の一つ。
 唐の詩人で、「鬼才」「白玉楼中の人」の故事でも有名な、李賀(791-817)の作品。
 人類が月面に立った20世紀より、千年以上昔の9世紀に、月の上から「地球」をながめて詠んだ詩。
 暑い夏の夜は、李賀の漢詩を読むのによいかもしれない。
 
  夢天   天を夢む
                            李賀
老兎寒蟾泣天色  老兎 寒蟾 天色に泣く
雲楼半開壁斜白  雲楼 半ば開き 壁 斜めに白し
玉輪軋露湿団光  玉輪 露に軋り 団光 湿ふ
鸞珮相逢桂香陌  鸞珮 相逢ふ 桂香の陌
黄塵清水三山下  黄塵 清水 三山の下
更変千年如走馬  更変 千年 走馬の如し
遥望斉州九点煙  遥かに望む 斉州 九点の煙
一泓海水杯中瀉  一泓の海水 杯中に瀉ぐ

 テンをユメむ。ロウト カンセン テンショクにナく。ウンロウ ナカばヒラき カベ ナナめにシロし。ギョクリン ツユにキシり ダンコウ ウルオう。ランパイ アイアう ケイコウのミチ。コウジン セイスイ サンザンのモト。コウヘン センネン ソウマのゴトし。ハルかにノゾむ セイシュウ キュウテンのケムリ。イチオウのカイスイ、ハイチュウにソソぐ。
 
ここは月世界。
月に住むという伝説のウサギ、ガマ、月桂、仙女たち、そして月宮殿が実在する世界。
月面は、濡れた光に満ちている。
空虚な天空。悠久の歳月を生きたウサギとガマは、すすり泣く。
雲煙に包まれた月の宮殿。門はなかば開き、白い壁には斜めの光。
月をとりまく宝石の輪のようなまどかな光は、露にうるおっている。
月桂の木の香りが満ちた月世界の道を、美しい服を着た仙女たちが行きかう。
月は、うるおいの光に満ちている。
この月世界から、私たちの地上を見下ろすと・・・・
月と地上では、時間の進み方が違う。
地上の千年の歳月も、月から見ると、ほんの一瞬。
ほら、見てごらん、太平洋の中の三つの仙山のあたりでは、
パッと土煙があがって海が陸地になったと思うと、
サッと青い海水がきて陸がまた海になる。
千年単位の滄桑の変も、宇宙から見おろせば、走馬灯のようにめまぐるしいくりかえし。
では、私たちが住む場所は、どう見えるだろうか。
はるか、月面から見たこの世は、コップのように丸い。
青い海水で満たされた丸いコップの中に、
豆粒のように小さな白い雲煙が九つ、見える。
人間にとって広大な地上も、宇宙から見おろせば、小さな点にすぎないのだ。