白鍵の音は「ドレミファ…」で言える。
黒鍵の音も、それぞれ一音で言いたい!
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 ピアノの白鍵の音の高さは、「固定ド」唱法で「ドレミファソラシド」、英語式音名表記なら「CDEFGAB」と表せる。
 でも、黒鍵のそれぞれの音には、名前はない。
 黒鍵を差別するなぁ!

 黒鍵の音は、「ドのシャープ」とか「レのフラット」とか、長い言いかたしかない。
 不便だよね。
 黒鍵の音は、ドイツ語だと「ツィス(Cis)」とか「デス(Des)」とか言うらしい。でも、日本語で「ツィス」とか「デス」とかは2拍の音になっちゃう。
 がんばれ黒鍵! 白鍵の「ドレミ」のように1拍で短く呼んでもらって、はじめて対等だぞ!

 そもそも「ドレミ…」は、歴史的な慣習でそう並んでいるだけで、理論的ではない。
  いっそ白鍵も含めて、論理的な音名にそろえちゃえばいいじゃないか!

 という合理的な発想から生まれたのが、1944年に矢田部達郎氏が発表した新しい音名の試案だ。こここでは、「サタナハ」唱法と呼んでおこう。
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 ↑矢田部達郎(1893ー1958)著『言葉と心 : 心理学の諸問題』(盈科舎、1944年)より

  え? 上の図を見ても、わからない?
  では、私が、上の図をもとに、ピアノ鍵盤図に直してみよう。
  白鍵の基本音はア段、半音高い嬰音はイ段、半音低い変音はオ段。
  うん、ものすごく合理的だ。さすがは音楽心理学者が考案しただけのことはある。
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 上の鍵盤図では割愛しているけれど、ピアノでは弾けない「四半音」(四分音)も、エ段やウ段で表せるように、矢田部達郎氏は工夫している。
  すごいぞ! ノーベル賞ものかも!!
  ……でも、残念ながら普及しなかった。 

 おお、そう言えば、日本には「ハニホヘトイロハ」という日本式の音名表記が、あったじゃないか。
 だったら黒鍵の音名も、それを拡張すればいい。
 1945年6月に文部省が通達した「いろは音名唱法」は、そういう発想にもとづいていた。
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 え? わかりにくい?
 では、私が、鍵盤図に書き直してみましょう。
 「重嬰音」と「重変音」は割愛して、「幹音」と、それぞれ半音上がりと半音下がりの音を、ピアノ鍵盤の図の中に書き込んでみる。
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 でも、戦争の最末期の通達だったうえ、この音名で曲の旋律を歌うと、戦時下の栄養失調の学童すらも思わず笑い出してしまうような、けったいな響きになってしまう。
 結局、これも普及しないまま終わってしまった。 

 戦争中の音楽教育は、戦争と結びついていた。
 兵隊や軍属は「絶対音感」を身につけたほうが、戦争に有利だ。
 絶対音感があれば、戦場を飛び交う弾丸の音の高さで、敵か味方か、どちらの銃声かを判断できる。
 絶対音感があれば、エンジンの音の高さで回転数や出力馬力を聞きわけられる。
 学校の音楽の授業で絶対音感を身につけた子供たちは、雲の上から聞こえてくる爆撃機のエンジン音を聴いただけで、日本の飛行機か、敵国の飛行機か、聞きわけられるようになる。
 すべての授業は、お国のため、戦争に勝つため。
 というわけで、戦時下の日本では、学童たちに絶対音感を身につけさせる教育をした。
 ソルフェージュでいうと、「移動ド」的な唱法より、「固定ド」的な唱法が推奨された。
 戦争が終わると、その反動がきた。
 戦後の教師は、戦前・戦中の教科書を捨てた。「固定ド」的な発想の唱法も、そのとばっちりで、音楽の教師からは嫌われてしまった。
 戦後の日本の音楽教育では、「移動ド」か「固定ド」か、優劣をめぐる論争が延々と続き、いろいろな案が出た。その半分くらいは、戦争のマイナスの記憶をひきずったものだった。

 戦後、上記の「いろは音名唱法」の考案にも携わった人が、「ドレミ式固定音名唱」を考案して推奨した。
 これも複雑なせいで、あまり普及しなかった。
 あれ? この戦後の「ドレミ式固定音名唱」、よく見ると、戦時中の「いろは音名唱法」の影を引きずってるみたいだぞ。
 A♯の黒鍵を「ヤ」と呼んだり、E♭の黒鍵を「モ」と呼んだり、E♯の白鍵(Fと異名同音)を「マ」と呼んだり。・・・・・・ 戦後の「ドレミ式固定音名唱」の根底には、「いろは音名唱法」の残滓があるぞ!
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 そもそも、なんで学者のセンセイたちは、それぞれの黒鍵に2つづつ音名をつけたがるの?
 学者の理論とか理屈とかはともかく、小学校の一斉授業とか、中高年で趣味で楽器を始める人とかには、黒鍵の音名は、それぞれ1個で充分だ。
 という訳で、上記の「ドレミ式固定音名唱」の黒鍵の音をそれぞれ1つにしぼったのが、西塚智光氏による「ドデレリ唱法」だ。
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 2016年現在、確認できるめぼしいソースがWikipediaなどのネット情報だけ、というのがちょっと不安だけれど(^^;; うん、これはナカナカ便利だゾ!

 というわけで、私のコンサーティーナのサイトでは、この「ドデレリ唱法」を活用することにしよう。
 詳しくは、こちらのサイトをどうぞ。