漢文や漢詩には毒がある。書いたのが中国人か日本人か、どこの国のどの時代の人間かは、関係ない。漢文そのものに毒がある。
ただし、毒と劇薬と良薬は、それぞれ紙一重である。
漢文を取り扱う人は、趣味で漢詩漢文に親しむ人であれ、仕事で漢詩漢文を取り上げる人であれ、漢文の危険さを認識しておいたほうが良い。
もちろん、世の中のものにはみな毒がある。水でさえ、たくさん飲みすぎると水中毒で死ぬ。空気でさえ毒性があり、吸いすぎると過換気症候群とか過呼吸で気絶する。
魅力的な食べ物も異性も、みな毒がある。
子どもが学校で学ぶ教科もみな、数学だって英語だって、みなそれぞれ毒がある。
しかし漢文の毒は、それらとはちょっとまた性質が違う。
特に、ナマの、ホンモノの漢詩漢文を取り扱う研究者や教員は、実験用の放射性物質を手で取り扱う技師のような注意が必要だ。
うまく言葉で説明しきれないので、一例を示す。
以下の写真は、日清戦争のときに刊行された、新作漢詩と剣舞の本である。

まるで首狩り族の踊りだ。
日本だけではない。中国大陸や朝鮮半島でも、ナマの本物の漢詩漢文の本は、毒に満ちている。
中国の英雄・岳飛も「壮志飢餐胡虜肉、笑談渇飲匈奴血」云々と、憎むべき敵国人の肉を食べ血を飲むという食人族さながらの詩句を詠んだ。歴代の中国人はそれを愛吟し、代々、子供に暗誦させてきた。
第二次世界大戦中は、戦闘機や戦艦の戦いを詠みこんだ新作漢詩も作られたが、きりが無いのでそれはまた別のときに話す。
幸いなことに、漢文はすでに時代遅れだ。現代の日本人にとって、漢文の毒は、種痘で使う牛痘の膿のようなものになっている。
漢文の毒を予防薬としてうまく使えば、英語の毒や、グローバリズムの毒、極左の毒や極右の毒への免疫力がつく。
もっとも、その前に、漢文を取り扱うプロ自身が、漢文の毒に冒されてはいけない。悪いことに、私自身も含めて、すでに漢文の毒にまみれてしまった教員や研究者が、世の中には多いのであるが……
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